変えられるものと変えられないもの
あなたは、仕事をしているときに、どんなことでイライラしたり、腹が立ったりしますか?
急に仕事を依頼されたとき、やった仕事が認められなかったとき、顧客や取引先から理不尽なことを言われたとき、など人それぞれあるでしょう。
私は、以前、他人が自分の思い通りに動かないときに腹を立てていました。
部下が自分の指示した通りに行動しない、後輩が自分のアドバイスを受け入れない、上司や先輩が自分の意見を認めてくれない、など。
「自分は正しい、相手は間違い」と一方的に決めつけて、相手を自分の思う通りに変えようとしていました。
いま思えば、変えられないものを変えようとしてイライラしていたわけです。
人をコントロールしようとしながら、実は自分自身をコントロールすることができていませんでした。
自分自身をコントロールすることをセルフコントロールと言います。
このセルフコントロール力を高めるには、「変えられるもの」と「変えられないもの」を分けて、「変えられるもの」にエネルギーを集中することが
大切です。
では、「変えられるもの」と「変えられないもの」にはどのようなものがあるでしょうか。
リンクアンドモチベーション代表の小笹氏はこれを以下のように分けています。
<変えられるもの>
・自分
・思考
・行動
・未来
<変えられないもの>
・他人
・感情
・生理反応
・過去
「他人を変えようとする前に、まず自分が変わる必要がある」ということはよく言われることです。
アメリカの精神科医エリック・バーンも「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる。」という有名な言葉を残しています。
さて、相手が自分の言った通りに動かない場合、そこには何らかの「理由」があります。
私の場合、それを頭ごなしに否定して、一方的に自分の要望だけ伝えても、相手は動かなかったわけです。
その後、心理学を勉強して、経験を積むことで、自分の接し方・要望の伝え方・指導の方法などを見直していきました。
そうやって自分が変わることによって、相手も変わっていきました。
上記の「変えられないもの」は、もっと踏み込んで言うと、「変えられないとまずは考えた方がいいこと」となるでしょう。
なぜなら、それらは「変わらないもの」ではなく、自分が変われば変わるものだからです。
自分の相手に対する言動が変われば、相手の反応も変わります。
考え方が変われば、起きる感情も変わってきます。
未来に対する気持ちが変われば、過去の出来事の解釈も変わってきます。
「変えられないもの」を変えようとして、そこにばかりエネルギーが注がれると、自分に対する信頼感や自信も損なわれてしまいます。
「変えられるもの」にエネルギーを注いでいくと、自分を認める気持ち、自己肯定感や自己効力感も上がっていくことになるのです。
「変えられるもの」の中に「思考」があります。考え方であり、ものごとの受け取り方です。
以前の私は、部下や後輩に対して、「自分がこう言ったのだから、相手がそうするのが当たり前だ」
「なぜ言った通りにしないんだ」と、相手の言い分も聞かずに一方的にそう考えていました。
会社で意見が対立したときも、反対意見を検討することもせず、「自分の意見にすべきだ」と押し通していました。
そして、自分に対しても他人に対しても、「少々体がつらくても頑張るべきだ」「これぐらいできて当たり前だ。できなければならない」と考えて、そのように言っていました。
このような考え方を「すべき思考」と言います。
そして、これは「認知のゆがみ」といって、生きづらい「考え方のクセ」と言われます。
もちろん、「~すべき」「~しなければならない」ということがすべて悪いということではありません。
しかし、それにとらわれ過ぎると、すべきことをできていない相手が許せなかったり、しなければならないことができていない自分を責めることになってしまうのです。
そして、自分を責める気持ちがひどいと「うつ」にもつながります。
以前の自分では一生懸命なつもりだったのですが、振り返ると、空回りしていました。
自分は腹を立ててばかりいて、部下や後輩たちにもつらい思いをさせてしまいました。
自分言う言葉や頭の中で考える言葉に、「~すべき」「~しなければならない」が多い場合は、以前の私と同じように、「すべき思考」が強いかもしれません。
「思考」は「変えられるもの」と書きましたが、「考え方の『クセ』」とあるように、これまでずっとその考えで生きてきたわけですから、なかなか簡単には変えられないかもしれません。
そこで、まずは「自覚すること」がセルフコントロールの第一歩になります。
「~すべき」「~しなければならない」という、自分で決めた枠にとらわれて苦しんでいないか、自分で定めたハードルに届かなくて悩んでいないか、自分自身を振り返ることが、まず大切なことです。
私がさせていただく、カウンセリング・セッションでも、まず「気づくこと」を重視しています。
そして、自分自身が自分のことを認めて、自分の行動や意識を変えて、心を整えて安定する「セルフコントロール」を育むようにしています。